
要約
女性の就業継続が広がる一方で、産後の家事・育児・母親の体調回復は、今も家庭内、とくに母親に負担が集中しやすい状況です。本稿では、産後ヘルパー株式会社の利用者アンケートをもとに、復職する女性、専業主婦を選ぶ女性、自営業の女性など、働き方ごとの産後ケアニーズをわかりやすく整理します。
1 はじめに
近年、出産後も仕事を続ける女性が増えています。
かつては、結婚や出産をきっかけに女性が仕事を辞めることも珍しくありませんでした。しかし現在は、育児休業制度の整備や企業の人材確保意識の高まりにより、出産後も同じ職場に戻り、キャリアを続ける女性が増えています。
これは社会にとって大きな前進です。
一方で、産後の生活が楽になったわけではありません。
仕事を続ける女性が増えても、家庭内の家事や育児の負担は、今も母親に偏りやすい状況があります。赤ちゃんのお世話、授乳、寝かしつけ、食事づくり、掃除、洗濯、上の子の対応、さらに母親自身の体調回復。これらを産後すぐの時期にこなすことは、とても大きな負担です。
そのため、女性の就業継続を本当に支えるためには、職場の制度だけでなく、産後の生活を支える仕組みが必要です。
今回の研究レポートでは、産後ヘルパー株式会社が2014年から2026年にかけて実施した利用者アンケートをもとに、出産後の復帰状況別に、産後ヘルパーの利用目的、利用期間、満足度を分析しました。
対象となったのは、全体回答数1,287件のうち、産後の復帰について回答した641件です。復帰後の働き方は、「正規雇用」「非正規雇用」「しばらく専業主婦」「自営業・会社経営」の4つに分けて整理しました。
2 出産後の働き方は多様になっている
今回の分析では、産後の復帰後の働き方として、正規雇用として復帰する人が最も多く、全体の68%を占めました。
次に多かったのは、しばらく専業主婦を続ける人で29%でした。非正規雇用として復帰する人は2%、自営業・会社経営として復帰する人は1%でした。
この結果から見えるのは、産後女性の働き方が一つではないということです。
すぐに正社員として復帰する人もいれば、しばらく育児に専念する人もいます。パート、契約社員、フリーランスとして働く人、自営業や会社経営を続ける人もいます。
ここで大切なのは、どの働き方がよい・悪いという話ではありません。
どの働き方であっても、産後の母親には身体的・精神的な負担があります。そして、それぞれの働き方によって、必要な支援の内容やタイミングが少しずつ異なります。

3 産後の体調トラブルは、多くの母親に起きている
産後の支援を考えるうえで、まず理解しておきたいのは、出産後の母親の身体は大きなダメージを受けているということです。
研究レポートでは、出産後に何らかの心身のトラブルを抱えている女性は9割以上にのぼるという先行調査が紹介されています。また、産後ヘルパー株式会社のアンケートでも、回答1,205件のうち「トラブル無し」は40件にとどまり、97%が何らかの産後トラブルを経験していました。
産後トラブルには、乳房トラブル、むくみ、会陰部の痛み、帝王切開の傷の痛み、産後うつ、不眠、疲労感などがあります。
つまり、産後ケアは「余裕がある人が使う特別なサービス」ではありません。
多くの母親にとって、産後の身体と心を回復させるために必要な支援と考えることができます。
4 正規雇用で復帰する女性は、母親ケアのニーズが高い
正規雇用として復帰する層は、今回のアンケートでは最も大きな割合を占めていました。
この層は、育児休業後に職場へ戻ることを前提に、産後の生活を計画的に整えたいと考えている可能性があります。職場復帰には、体調の回復、睡眠の確保、育児リズムの安定、家事負担の調整などが関わります。
分析では、正規雇用として復帰する層の75%が「母親ケア」を産後ヘルパーの利用目的として挙げていました。また、赤ちゃんケアも64%と高くなっています。
これは、正規雇用で復帰する女性が、単に家事を手伝ってほしいだけではなく、母親自身の回復と赤ちゃんのお世話の両方を必要としていることを示しています。
平均利用日数は19.5日で、比較的長めです。

復職に向けて体調を整え、育児の不安を減らし、生活リズムを作るために、一定期間継続して利用していると考えられます。
5 非正規雇用で復帰する女性は、必要な時期に絞って利用している
非正規雇用として復帰する層は、今回のデータでは少数でした。
ただし、少数だから重要ではないということではありません。
非正規雇用には、パート、契約社員、フリーランスなど、さまざまな働き方が含まれます。育児休業制度を十分に利用できない場合や、収入面の制約から長期間のサービス利用が難しい場合もあります。
この層の平均利用日数は11.0日で、他の層より短くなっています。
これは、必要な時期に絞って、スポット的に産後ヘルパーを活用している可能性を示しています。
一方で、母親ケアを求める割合は60%あり、母親自身の回復ニーズはしっかり存在しています。
つまり、非正規雇用の女性にも産後ケアは必要ですが、費用や制度、利用しやすさの面で、より利用しやすい仕組みが求められていると考えられます。
6 専業主婦を選ぶ女性にも、産後ケアは必要
「しばらく専業主婦を続ける」と回答した層は、全体の29%でした。
ここで誤解してはいけないのは、専業主婦だから産後支援が不要というわけではないことです。
専業主婦であっても、産後の身体的・精神的負担は大きく、赤ちゃんのお世話や家事、上の子の対応を一人で抱え込むことがあります。
分析では、この層の69%が母親ケアを求め、74%が赤ちゃんケアを求めていました。平均利用日数も17.5日と一定期間の利用が見られます。
これは、就業の有無に関わらず、産後の母親には支援が必要であることを示しています。
専業主婦の方は、外から見ると「家にいるから大丈夫」と思われがちです。しかし実際には、家にいるからこそ、育児と家事の負担がすべて自分に集中しやすい面があります。
産後ケアは、働く女性だけのものではありません。すべての産後女性にとって、身体と心を立て直すための大切な支援です。
7 自営業・会社経営の女性は、仕事継続のために長く利用する傾向
自営業や会社経営として復帰する層は、全体では1%と少数でした。
しかし、この層には特徴があります。
平均利用日数が20.5日と、4つの層の中で最も長くなっていました。
自営業や会社経営の場合、働く時間や場所をある程度調整できる一方で、会社員のような育児休業制度や組織的な代替体制がない場合もあります。仕事を完全に止めることが難しく、産後すぐから業務への対応が必要になることもあります。
そのため、母親ケアと赤ちゃんケアを同時に確保しながら、仕事を継続する必要があります。
分析でも、自営業・会社経営層では、赤ちゃんケアを求める割合が78%と高く、母親ケアも67%となっています。
この層にとって産後ヘルパーは、単なる家事支援ではなく、健康を守りながら仕事を継続するための生活基盤になっていると考えられます。
8 働き方に関わらず、満足度は高い
産後ヘルパー利用後の満足度を見ると、どの働き方の層でも高い評価が得られていました。
正規雇用として復帰する層では、「大満足」と「満足」を合わせて95%。非正規雇用では100%。しばらく専業主婦を続ける層では94%。自営業・会社経営層でも89%でした。
この結果から、産後ヘルパーは、働き方に関わらず、多くの利用者にとって役立つ支援であることがうかがえます。
ただし、自営業・会社経営層では「不満」とする回答も一部見られました。この層は仕事継続への制約が強く、求める支援内容や柔軟性も高い可能性があります。今後は、働き方ごとの細かなニーズに合わせたサービス設計も重要になると考えられます。
9 産後ヘルパーは「家事代行」だけではない
今回の研究レポートで最も大切な点は、産後ヘルパーが単なる家事代行ではないということです。
もちろん、料理や掃除、洗濯などの家事支援は重要です。しかし、利用目的を見ると、多くの層で最も重視されていたのは「母親ケア」と「赤ちゃんケア」でした。
母親ケアとは、産後の身体を休めること、疲労を軽くすること、精神的な不安を受け止めること、安心して育児に向き合えるようにすることです。
赤ちゃんケアとは、新生児のお世話、授乳や寝かしつけのサポート、育児の不安を軽くすることです。
つまり、産後ヘルパーは、産後の母親が生活を立て直し、育児を始め、必要に応じて仕事へ戻っていくための「産後のコンディション回復支援サービス」といえます。
この視点は、妊娠中のご夫婦だけでなく、産婦人科クリニック、助産院、助産師、自治体の母子保健担当者、企業の人事・福利厚生担当者にとっても重要です。

10 女性の就業継続を支えるには、職場制度だけでは足りない
女性の就業継続を支えるために、育児休業制度や短時間勤務制度はとても重要です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
なぜなら、女性が仕事を続けられるかどうかは、職場の制度だけでなく、家庭での生活が回るかどうかにも大きく左右されるからです。
出産後に退職した女性の中には、妊娠前には仕事にやりがいや楽しさを感じていた人も多くいます。つまり、仕事を嫌いになったから辞めたのではなく、育児と生活を両立できる環境が足りなかったために、やむを得ず離職したケースもあると考えられます。
企業にとっても、出産を理由に経験ある女性社員が離職してしまうことは大きな損失です。
これからは、企業の福利厚生として、産後ケアや訪問型産後ヘルパーの利用支援を検討することも重要になるでしょう。
職場復帰を本当に支えるためには、職場の制度と家庭の支援をつなげる必要があります。
11 自治体・医療機関・助産師にとっての示唆
今回の分析は、自治体や医療機関にとっても重要です。
自治体の産前産後支援では、産後ケア事業、産前産後ヘルパー派遣、育児相談、訪問支援など、さまざまな制度があります。しかし、利用者から見ると、どの制度をいつ使えばよいのか分かりにくいこともあります。
産後女性の働き方や家庭環境は多様です。
正規雇用で復帰する人には、復職を見据えた計画的な支援が必要です。専業主婦を選ぶ人には、孤立や育児負担を軽減する支援が必要です。自営業の人には、仕事と育児を同時に支える柔軟な支援が必要です。
産婦人科クリニックや助産院、助産師は、妊娠中から産後の生活について相談を受ける立場にあります。そのため、出産後の家事・育児支援や訪問型産後ケアの情報を早めに伝えることは、母親の不安軽減につながります。
12 おわりに
女性の就業は増え続けています。
しかし、出産後の生活を母親一人の努力に任せたままでは、本当の意味で女性の就業継続を支えることはできません。
正規雇用で働く女性、自営業で仕事を続ける女性、しばらく専業主婦を選ぶ女性、非正規雇用で働く女性。どの立場であっても、産後の母親には身体と心を回復させる時間と支援が必要です。
今回の分析から、産後ヘルパーは、働き方に関わらず、母親ケアと赤ちゃんケアを中心に、産後の生活再建を支える役割を果たしていることが分かりました。
産後ケアは、単なる家事代行ではありません。
母親が安心して育児を始め、必要に応じて仕事へ戻り、家族が新しい生活を整えていくための重要な支援です。
産後総合研究所では、今後も産後女性と家族の声をもとに、産後ケアの必要性と実務的な価値を発信してまいります。
13 Q&A
Q1. 産後ケアは、仕事に復帰する女性だけが使うものですか?
いいえ。産後ケアは、仕事に復帰する女性だけのものではありません。専業主婦を選ぶ女性にも、産後の身体的・精神的負担があります。働き方に関わらず、母親の回復と育児不安の軽減のために利用できます。
Q2. 産後ヘルパーは家事代行と何が違いますか?
家事代行は主に掃除や料理などの家事を代行するサービスです。一方、産後ヘルパーは、母親ケア、赤ちゃんケア、育児相談、産後の体調回復支援などを含みます。産後の母親と赤ちゃんを支える専門性がある点が大きな違いです。
Q3. 正社員として復職予定の場合、産後ケアは役立ちますか?
はい。正社員として復職する場合、産後の体調回復、睡眠不足の軽減、育児リズムづくり、家事負担の軽減が重要です。産後ケアを計画的に利用することで、復職に向けた生活基盤を整えやすくなります。
Q4. 自営業や会社経営の女性にも産後ケアは必要ですか?
必要性は高いと考えられます。自営業や会社経営の場合、仕事を完全に止めにくく、産後すぐに業務対応が必要になることもあります。母親ケアと赤ちゃんケアを外部支援で補うことで、健康と仕事継続の両立を図りやすくなります。
Q5. 企業の福利厚生として産後ケアを導入する意味はありますか?
あります。育児休業や時短勤務だけでなく、産後の家事・育児負担や母親の体調回復を支えることは、女性社員の就業継続に役立つ可能性があります。企業にとっても、経験ある人材の離職防止や復職支援につながります。
研究レポート執筆
●産後総合研究所 研究員、中小企業診断士 青木 根玄

バイオ分野の研究に10年以上携わった後、産学連携を通じて、研究成果の社会実装や新規事業創出に関心を深め、研究成果をビジネスにつなげる視点を身につけるため中小企業診断士を取得した。その一方で、安全に関わる資格、衛生管理者やメンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種も取得。現在は、神奈川県中小企業診断協会、つぎ夢経営研究会、AIビジネス経営研究会、日本バイオインフォマティクス学会に所属。
●産後総合研究所 主席研究員、産後ヘルパー株式会社 取締役、中小企業診断士 高久 広

中小企業診断士として3,000社以上の企業の経営支援に23年間従事。2014年、神奈川産業振興センターの創業支援施設で創業直後の産後ヘルパー株式会社の支援を開始し、5年にわたり成長を支援。2019年に取締役へ就任し、経営、マーケティング、Web、労務管理などを担当し、産後ケア業界に13年従事。産後総研では、経営分析や実務データの視点から産後ケアに関する調査・研究に取り組んでいる。
●産後総合研究所 主幹研究員、産後ヘルパー株式会社 代表取締役 明 素延

慶應義塾大学大学院商学研究科で計量経済学・商学を学び、同大学産業研究所共同研究員、商学研究科助教を歴任。自身の出産・産後ケア経験を契機に、2013年から「少子化と経済―産後ケア」を研究テーマとし、韓国の産後管理士資格を取得。2014年に産後ヘルパー株式会社を設立し代表取締役に就任。産後女性の心身の回復と育児支援に取り組んでいる。産後総研では、経営分析や実務データの視点から産後ケアに関する調査・研究に取り組んでいる。




