【研究レポート Vol.4】育休があっても不安は消えない産後ケアが果たす別の役割〜夫の育児参加と産後ケアとの非競合的役割に関する検討

産後ヘルパー株式会社のお客様と産後ヘルパー

概略

産後ヘルパー株式会社の利用者1,284人(2014~2025年)のアンケートを分析したところ、夫の育児貢献が高い層でも産後うつ状態は36.8%、育休ありの層でも37.0%でした。一方、産後ケア満足度は夫の貢献度にかかわらず95%を超えました。夫の支援は大切ですが、産後ケアは身体的負担の軽減と、家族には話しにくい不安を安心して話せる心理的安全性を補う可能性があります。

1 研究レポートが調べたこと

本記事は、産後総研(産後総合研究所)が、研究員のメンバーと積み重ねてきた研究レポートを、一般の方にも分かりやすく紹介するものです。

正式な題名は「育休があっても不安は消えない、産後ケアが果たす“別の役割”―夫の育児参加と産後ケアとの非競合的役割に関する検討―」です。

研究の中心となる問いは、夫の育児参加や育児休暇の取得が充実していれば、産後ケアは必要なくなるのか、ということです。研究レポートは、夫の支援と産後ケアを競い合うものとしてではなく、それぞれ異なる役割を持つ支援として捉えています。

2 なぜ夫の支援だけでなく産後ケアを考えるのか

産後の女性は、出産から回復しながら、授乳、睡眠不足、赤ちゃんのお世話、家事などに向き合います。夫やパートナーの育休と育児参加は大切です。しかし、同じ家庭の中にいるからこそ、「これ以上頼みにくい」「不安を話すと心配をかける」といった遠慮が生まれることも考えられます。

そこで研究レポートは、家族による支援と、産後ヘルパーや助産師など第三者による産後ケアでは、産後の女性を支える仕組みが異なるのではないかという仮説を立てました。

3 調査と分析の方法

分析に使ったのは、産後ヘルパー株式会社が2014年から2025年までに実施した利用者アンケートです。総回答数は1,284件でした。

夫の育児貢献度を「高・低」、夫の育休を「あり・なし」に分け、次の二つとの関係をクロス集計しています。

  • 産後うつ状態の有無
  • 産後ケア満足度の上位2項目である「大満足」「満足」

夫の貢献度は、「すべてにおいて助かった」「助かった」を高、「役に立たなかった」「ほとんどなかった」を低としました。育休は、「0日」をなし、日数や期間の記載がある回答をありとしています。

産後うつ状態は、アンケートに書かれた涙、不眠、イライラ、不安、神経質、食欲低下などの症状語をもとに、あり・なしを判定したものです。これは医師による産後うつの診断とは異なります。不明な回答は、それぞれの分析から除外されています。

4 主な調査結果

1.夫の育児貢献度と産後うつ状態

夫の育児貢献度が高い層で、産後うつ状態が「あり」とされた割合は36.8%でした。貢献度が低い層では31.8%で、差は5.0ポイントです。

この結果だけを見て、「夫がよく育児をすると産後うつ状態が増える」と考えるのは誤りです。世帯の状況、価値観、住環境など別の要因が影響する可能性があり、クロス集計から因果関係は判断できません。

2.夫の育休と産後うつ状態

夫の育休がある層では、産後うつ状態が「あり」とされた割合は37.0%、育休がない層では34.9%でした。差は2.1ポイントにとどまりました。

三重クロスについて、研究レポートには、夫の育児貢献度が高く育休もある層の産後うつ状態を「37.3%、150/252」と記載しています。しかし、150÷252は約59.5%で、割合と人数が一致しません。この数値は原データによる確認が必要なため、本記事では結論の根拠に用いません。

3.産後ケアの満足度

産後ケアの満足度は、夫の育児貢献度が高い層で98.2%、低い層で95.8%でした。いずれも「大満足」「満足」を合わせた割合が95%を超えています。

研究レポートは、この高い満足度から、産後ケアが家族内の支援とは異なる価値を提供する可能性を示しています。ただし、満足度だけで、産後ケアが産後うつ状態を予防したとは結論づけられません。

5 産後ケアが担う「別の役割」とは

研究レポートでは、夫の育児参加と産後ケアを、どちらか一方を選ぶ関係ではなく、主な役割が異なりながら一部が重なる補完関係と考えています。

夫やパートナーによる育児、家事の分担、共感、安心感には、家族だからこその価値があります。

一方、産後ケアは、家事・育児の支援や身体を休める時間をつくるだけではありません。第三者である支援者には、次のような役割も考えられます。

  • 家族への遠慮や役割への期待から離れて、不安や疲労を話せる
  • 失敗や弱音を評価されず、今の状態を受け止めてもらえる
  • 必要な支援内容を、産後の女性自身が選びやすい
  • 専門的な知識や経験に基づく助言を受けられる

このような「安心して話せる、頼れる」という感覚が、研究レポートでいう心理的安全性です。ただし、今回のアンケートは心理的安全性そのものを数値で直接測定したものではありません。心理的安全性は、調査結果を説明するために研究者が示した仮説・考察として区別して理解する必要があります。

夫の沐浴

6 妊娠中の夫婦と家族にとっての意味

この研究から実生活に生かせる考え方は、「夫が頑張るか、外部サービスを頼むか」の二者択一にしないことです。

妊娠中から、家事と育児の担当だけでなく、母親が休む時間、不安を話せる相手、夜間の相談先まで考えておくと、支援が一人に集中しにくくなります。外部支援は夫の役割を奪うものではなく、夫婦だけで抱える負担を分ける方法の一つです。

特に意識したいのは、次の四点です。

  • 家族の支援と第三者の支援を組み合わせる
  • 休息と、安心して話せる環境の両方を確保する
  • 困りごとが大きくなる前から相談先を決めておく
  • 母親も父親も、一人で抱え込まない仕組みをつくる

気分の落ち込み、不眠、強い不安、食欲低下などが続く場合や、自分や赤ちゃんの安全に不安がある場合は、産後ケアだけで解決しようとせず、医師、助産師、保健師、医療機関などへ早めに相談することが大切です。

7 自治体、医療・助産関係者にとっての意味

自治体や医療・助産関係者にとって重要なのは、夫が育休を取っている家庭や、夫の育児参加が多い家庭を「支援の必要性が低い」と一律に判断しないことです。今回の調査では、夫の支援が比較的充実した層にも産後うつ状態が一定割合みられました。

家族構成や育休の有無だけで対象を絞らず、本人の身体状態、睡眠、孤立感、不安、相談相手の有無も確認する必要があります。家族、自治体、医療機関、助産師・保健師、産後ケア事業者を必要に応じてつなぐ仕組みが重要です。

産後ケア事業者にも、家事や育児を代わる技術だけでなく、利用者が安心して話せる関係づくりが求められます。同時に、支援者が医療上の診断を行わず、必要な場合に医療・母子保健へつなぐ線引きも欠かせません。

8 結果を見る際の注意点

この研究結果を読む際には、次の限界があります。

第一に、対象は産後ヘルパー株式会社のサービス利用者であり、すべての産後の女性を代表する調査ではありません。第二に、産後うつ状態はアンケートの症状語による分類であり、医師の診断ではありません。第三に、夫の育児貢献度や満足度は回答者による評価で、家庭ごとの状況や期待の違いが影響する可能性があります。

また、今回の分析はクロス集計が中心です。統計的な有意差の検定はレポートに示されておらず、夫の支援や産後ケアが産後うつ状態を増減させたという因果関係は判断できません。分かるのは、夫の支援状況だけでは産後うつ状態の有無を単純に説明しにくく、夫の貢献度が異なる層でも産後ケア満足度が高かった、という範囲です。

9 まとめ

夫の育児参加や育休取得は、産後の家庭にとって大切な支援です。しかし、今回の1,284人の利用者調査では、夫の支援が比較的充実した層にも産後うつ状態が一定割合みられました。一方、産後ケア満足度は夫の貢献度にかかわらず95%を超えていました。

この結果は、夫の支援が不要だという意味ではありません。家族だからこそできる支援と、第三者だからこそ提供しやすい休息、専門的支援、心理的安全性を組み合わせることの大切さを示唆しています。

訪問型の産後ケアを検討する場合は、産後ヘルパー株式会社のサービス内容も確認できます。ただし、サービスの利用だけで医療的な問題が解決するとは限りません。産後の生活に不安がある場合は、家族だけで抱え込まず、自治体、医療機関、助産師、保健師、産後ケア事業者などへ早めに相談してください。


10 よくある質問

Q1. 夫が育休を取れば、産後ケアは必要ありませんか?

いいえ、育休があることだけで産後ケアが不要になるとは限りません。今回の調査では、育休ありの層でも産後うつ状態が37.0%みられました。夫の支援と、第三者による休息・家事育児支援・相談環境には異なる役割があるため、家庭の状態に応じて組み合わせることが考えられます。

Q2. 父親の育児参加が多いと、産後うつ状態が増えるのですか?

そのようには結論づけられません。夫の貢献度が高い層の割合は36.8%、低い層は31.8%でしたが、これはクロス集計であり、因果関係を示すものではありません。家庭環境など別の要因が影響している可能性があります。

Q3. この調査の「産後うつ状態」は、医師による診断ですか?

いいえ、医師の診断ではありません。アンケートに記載された涙、不眠、イライラ、不安、食欲低下などの症状語をもとに分類したものです。症状が続く場合や安全に不安がある場合は、医師、助産師、保健師などへ相談してください。

Q4. 自治体は、夫が育休中の家庭を産後ケアの対象外にしてよいですか?

この研究結果だけから対象基準を決めることはできません。ただし、夫の育休や育児貢献だけでは支援の必要性を判断しにくいことが示唆されています。本人の身体状態、睡眠、不安、孤立感、相談先の有無も含めて確認することが重要です。

Q5. 助産師や産後ケア事業者には、どのような支援が求められますか?

家事・育児や身体面の支援に加え、利用者が評価を恐れず不安や疲労を話せる関係づくりが求められます。一方、医療上の診断は行わず、心身の不調が疑われる場合は医療機関や自治体の母子保健へつなぐことも大切です。


研究レポート執筆

●産後総合研究所 研究員、中小企業診断士・認定心理士 関戸 雅之

産後総合研究所 研究員、中小企業診断士・認定心理士 関戸 雅之

早稲田大学法学部卒業。中小企業診断士、認定心理士。日本心理学会会員。法学、経営学、心理学の知見を基盤とし、社会課題や消費者行動に関する調査・分析に取り組んでいる。自らの子育て経験から子育て家庭が直面する課題に関心を持ち、産後総合研究所ではアンケートデータの分析や研究レポートの執筆など、調査・研究に取り組んでいる。研究活動の傍ら、孤独・孤立の課題や障がい者スポーツ支援等に関わる公益活動にも参画している。


●産後総合研究所 主席研究員、産後ヘルパー株式会社 取締役、中小企業診断士 高久 広

●産後総合研究所 主席研究員、産後ヘルパー株式会社 取締役、中小企業診断士 高久 広

中小企業診断士として3,000社以上の企業の経営支援に23年間従事。2014年、神奈川産業振興センターの創業支援施設で創業直後の産後ヘルパー株式会社の支援を開始し、5年にわたり成長を支援。2019年に取締役へ就任し、経営、マーケティング、Web、労務管理などを担当し、産後ケア業界に13年従事。産後総研では、経営分析や実務データの視点から産後ケアに関する調査・研究に取り組んでいる。


●産後総合研究所 主幹研究員、産後ヘルパー株式会社 代表取締役 明 素延

産後総合研究所 主幹研究員、産後ヘルパー株式会社 代表取締役 明 素延

慶應義塾大学大学院商学研究科で計量経済学・商学を学び、同大学産業研究所共同研究員、商学研究科助教を歴任。自身の出産・産後ケア経験を契機に、2013年から「少子化と経済―産後ケア」を研究テーマとし、韓国の産後管理士資格を取得。2014年に産後ヘルパー株式会社を設立し代表取締役に就任。産後女性の心身の回復と育児支援に取り組んでいる。産後総研では、経営分析や実務データの視点から産後ケアに関する調査・研究に取り組んでいる。


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