
1,285人の産後女性の声から見えてきた、日本の産後支援の現状と課題
― 産後総合研究所 利用者アンケート単純集計結果 ―
1 はじめに
産後総合研究所では、産後ケアに関するエビデンスを蓄積・発信することを目的として、研究レポートとなるディスカッションペーパー(DP)の公開を開始します。
第1回となる今回は、産後ヘルパー株式会社が2014年から2025年までの約12年間にわたり収集した1,285名の利用者アンケートを単純集計し、日本の産後女性が置かれている現状を整理しました。
この調査は学術論文ではありません。しかし、実際に産後ケアサービスを利用した女性たちの率直な声であり、現場で起きている現実を映し出す貴重な資料であると考えています。
本稿では、調査全体を概観しながら、そこから見えてきた特徴についてご紹介します。
2 約12年間にわたり蓄積された実務データ
本調査は、産後ヘルパー株式会社が訪問型産後ケアサービス利用者を対象に実施したアンケートを基にしています。
調査期間は2014年10月から2025年12月まで、有効回答数は1,285件に達しました。アンケートは、産後機器を発送する際に同封し、サービス終了後に任意で回収しています。
行政統計では把握しにくい「実際にどのような支援を必要としていたのか」「どのようなケアが役に立ったのか」を知ることができる点が、本調査の特徴です。
3 利用者の多くは初めての出産を経験した家庭
回答者の約8割は、第1子(みなし第1子を含む)の出産家庭でした。
初めての育児では、経験不足による不安や身体的負担が重なります。そのため、産後ケアへの需要が高いことは容易に想像できます。
一方で、帝王切開による出産が47%を占めていたことも注目されます。
身体への負担が大きい出産後には、育児支援だけでなく、母親自身の身体の回復を支えるケアが重要であることが示唆されました。
4 「里帰りしない」が当たり前になりつつある
本調査で最も印象的だった結果の一つが、「里帰りをしていない」と回答した人が94%に達したことです。
理由としては、
- 上の子の通園・通学
- 実母の高齢化
- 実母が仕事をしている
- 自宅で夫婦一緒に育児をしたい
などが挙げられました。
かつて一般的であった「里帰り出産」を前提とした支援だけでは、現在の育児環境に十分対応できなくなっている可能性があります。
自宅で生活を続けながら受けられる産後支援の重要性は、今後さらに高まると考えられます。
5 身体的トラブルは想像以上に多い
産後の身体的トラブルでは、
- 乳房トラブル(30%)
- 産後のむくみ(25%)
- 全身の痛み・炎症(18%)
が上位となりました。
また、有効だったケアとしては、
- 母親の食事・家事支援
- 足マッサージ・足湯
- 乳房マッサージ・搾乳機
などが高く評価されています。
産後ケアというと赤ちゃんのお世話をイメージする人も少なくありません。
しかし今回の結果からは、母親自身の身体を回復させるケアへのニーズが非常に高いことが読み取れます。
6 精神的サポートの重要性
身体だけでなく、精神面の支援も欠かせません。
「何故か涙が出る」「常にイライラしている」といった精神的不調を経験した人は少なくありませんでした。
産後うつは突然発症するものではなく、日々の疲労や孤立感の積み重ねによって生じることもあります。
産後支援には、家事や育児の援助だけでなく、母親が安心して相談できる存在が必要であることを、この結果は示しています。
7 夫の育児参加は進みつつあるが、育児休暇取得には課題
夫の育児参加については、「助かった」と回答した人が大半を占めました。
一方で、育児休暇日数では49%が「0日」と回答しています。
制度は整備されつつありますが、実際には取得が難しい家庭も依然として多いことがうかがえます。
家庭だけで解決することは難しく、社会全体で支える仕組みづくりが引き続き求められます。
8 利用者満足度は97%
産後ヘルパー株式会社のサービスについては、「大満足」「満足」が97%を占めました。
この結果は単なる顧客満足度ではなく、「どのような支援が母親に必要とされているのか」を知る重要な手がかりでもあります。
産後ケアに求められているのは、家事だけでも、育児だけでもありません。
母親の身体の回復、精神的な安心感、赤ちゃんのケアを包括的に支援することが、現代の産後支援には求められていることが、本調査から読み取れます。
9 今後に向けて
今回公開した結果は、あくまでも単純集計です。
今後、産後総合研究所では、
- 出産形態と産後トラブルの関係
- 利用日数と満足度の関係
- 里帰りの有無と精神的不調の関係
- 夫の育児参加と産後うつとの関連
- 地域差による支援ニーズの違い
などについて、多角的な分析を進めていく予定です。
現場で蓄積された実務データと国内外の研究成果を組み合わせることで、産後ケアの質向上に資するエビデンスを発信し、産後女性とその家族、さらには産後ケアに携わる専門職や行政にとって有益な知見を提供していきたいと考えています。
おわりに
本ディスカッションペーパーは、産後総合研究所が継続的に発信する研究シリーズの第1回です。
産後女性を取り巻く環境は、この10年余りで大きく変化しました。だからこそ、現場で得られたデータを客観的に分析し、社会へ還元することが重要であると私たちは考えています。
今後も産後総合研究所では、実務データと学術的知見の双方に基づき、産後ケアの発展に寄与する情報を継続的に発信してまいります。
産後総合研究所 主席研究員、産後ヘルパー株式会社 取締役、中小企業診断士 高久 広
運営会社 ▶産後ヘルパー株式会社

